【割と書評】『思考の「型」を身につけよう』

多分今年最後になる【割と書評】コーナー。来年からは1カ月に1〜2冊新書を紹介するコーナーみたいな感じで発展させていきたいけれど、どうなることやら。

今月紹介する本は、飯田泰之著『思考の「型」を身につけよう』(朝日新書)。著者の飯田先生は若手リフレ派の代表みたいな経済学者で、マスコミにもよく出てる。院生時代に公務員試験用の予備校で教えていたとかいろいろあって、説明のうまさには定評がある…多分。

タイトルからわかるように、この本は経済学の難しい理論とかを書いた本じゃない。経済学を使ってモノを考えるとどんなことが見えてくるだろう?という本。序論のところは、飯田式大学教育論でもある。ついでに経済学に限らない基本的な(論理的な)モノの考え方も書いてある。そういう意味では、一粒で三度くらいオイシイ。


例えば、合理的ってどういうこと?という問いに対して、別に機械みたいな冷徹さを表しているんじゃなくて、「主観的な幸せを最大化すること」だと説明する。(106ページ)*1これは多分いろんな人が誤解してるし、多分私もうっかりすると時々間違える(汗)

さて、この意味で「合理的」だとすると、意外といろんなものが見えてくる。それは、「世の中に存在している全てのモノや現象には理由がある」ということだ。この発想は経済学的思考が持つ強みの1つだと思う。当たり前のことのように思えるかもしれないけど、この発想って意外と共有されてない。原発反対即時停止をお念仏のように*2唱える人はなぜ原発ができたかなんて考えようともしないし、外交でその方が「利益」になると考えたからアメリカに「従属」してきたんだなんてことは考えつきもしない。*3こういう人たちにはこの「世の中に存在している全てのモノや現象には理由がある」の部分を100回くらい音読していただきたいところだ。


あと、あんまり経済学思考系の本で見ない話題で出てきたのはオープンシステムとクローズドシステムの話。外部に逃げることができる場合とできない場合で全くとるべき選択肢が異なってくるということ。そういえば某居酒屋の社長が某選挙に立候補してたなぁとか、ロム○ーは投資会社の顧問だかをやってたから経済に強いんだみたいな主張があったなぁとか思い出す。


全体的に経済学的思考の実践例、という形で読みやすくまとまっていたと思う。特に読んで楽しめると思うのは、やはり現在進行形、または過去完了形の経済学学習者。あるいは、経済学的な思考というヤツに不信感を持っている別の学問畑の人もいい。こういう人たちは「楽し」めないかもしれないけども。あと何かタイトルがハウツーっぽいけど、お手軽ハウツー本みたいなのを欲してる人はあんまり合わないかもしれない。まぁその辺は、編集の人がハウツー好きの人も手に取るように仕組んだのかななんて思ってみたり。




(余談)1章で幸福の例として結婚が出てくるのはちょいとびっくりした笑。飯田先生は独身*4だったはずなんだけども、もしかしたら水面下で結婚話が進んでるのかもしれない。それとも、みんな結婚についてもう少し冷静になって考えてみようぜ!という独身者なりの問題提起なんだろうか?笑

*1:105ページで合理的な行動を「それなりに納得できる」思考・行動と定義して枠で囲ってまでいるけど、これは私はちょっとずれてると思う。

*2:原発のスローガンを全部並べたらお経みたいになりそうだ

*3:わかると思うけれど、一時期話題になった某現代史本への皮肉

*4:『脱貧困の経済学』(ちくま文庫)に、この歳で独り身だと変な目で見られる云々という記述が出てくる