年の瀬に
というわけで2012年もあと1週間ちょい。去年と同じように、今年読んだ本を振り返ってみるだけの記事だけども、しばしおつきあいのほどを。
まず読書冊数は今日までで157冊の模様。去年の年末に「とりあえず150は割りたくない」と言っていたので、まぁ目標は達成できたかな。ちょこちょこ記入漏れもあるし、論文教科書類等あくまで勉強研究のために読んだ本は入れてないから、意外とこんなもん。
巨年末に立てた目標を振り返ると、ジャンルとしては確かにSFが4冊…あと『八十日間世界一周』とか混じってる。これはまぁ世界文学枠で。そういえば『ヴェニスの商人』を読んだなぁ。あれはユダヤ関連を調べている時(3月くらい?)に読んだんだっけ。結局丸山真男は読まず、和辻哲郎も『古寺巡礼』をざっと読んだだけだったね。
来年は150冊維持はまぁ当然として、もう少し新刊を追いかけていきたい。『割と書評』も新刊の新書を中心に1カ月に2冊くらいのペースで書けるといいと思っている。
読書ジャンルとしてはあまり今までと大きく変えるつもりはないかなーという感じ。新書、歴史、科学、経済などを節操無く。
さて、今年のマイベストは…
『100のモノが語る世界の歴史』シリーズ(筑摩選書) ※
いやホントは1〜3巻構成なんだけども、原書はもともと1冊ですごい分厚くてもっと安い(涙)らしいんでいいでしょってことでここはひとつ。
大英博物館の展示品の中から100個選び、それにまつわるエピソード等で歴史を語っていこうという本。
文字に残った歴史は勝者の、あるいは文字を持つ者だけの歴史になってしまうし、書き換えもできる。だけどモノは文字がない文明でも貴重な史料足りうるし、完全に壊したり置き換えたりするのは困難。だからモノを見つめることで、新しい歴史の姿が見えてくるのではないか、というのがコンセプト。
前評判とか一切なしで、本屋さんでたまたまタイトルに引っ張られて手にとって、前書きに書かれたこの本のコンセプト(上で書いたやつね)に引っ張られて買ったんだけどこれが大当たり。有名な書評ブログだと「スゴ本」さんも取り上げているし、Honzでも成毛さんが書いてたりする。ノンフィクション、歴史もの好きには外せない本になっていくのではないかな、と思う。
以下、ベスト10まで。ちなみに「※」マークは「今年の本」を意味していて、前評判抜きだったり新鮮さ・新しさ評価だったりするので少し甘めの順位になってるかも、という意味。
2 科学の栞(朝日新書) ※
3 感性の限界(講談社現代新書) ※
4 旧約聖書を知っていますか(新潮文庫)
5 現代素粒子物語(講談社ブルーバックス) ※
6 甲子園が割れた日(新潮文庫)
7 鉄道会社はややこしい(光文社新書) ※
8 LIVE講義北朝鮮入門(東洋経済新報社)
9 国際秩序(中公新書) ※
10 ものが壊れるわけ(河出書房)
意外と今年出た本が多い。昔の本だと単なる「情報」として以上の付加価値がないと100%楽しめない、というのはあると思う。そういう意味でも本も鮮度が大切なんだよね。今私は就活をしているけれど、本を買うお金に困る人生だけは送りたくない。笑。
2位から5位くらいは一応順位付けしたけれど、ほとんどトントン。6位以降は一応ある程度順位づけの理由があるって感じ。そういう意味では「ベスト5+α」くらいのイメージ。1位はちょっと別格笑。
さて適当にコメント。『科学の栞』は本当は去年末の本なんだけれど(苦笑)、去年まとめ記事を書いてから年末に立ち寄った本屋さんで出会った名著。名著…?実はただの書評集なんだけど、書評集のクセに(失礼)すんごい面白い。前書きの、科学書をはじめとするノンフィクションを読む意味に関する文章に痛く感動して、結局こんな順位に。
『感性の限界』は、新書読みなら見たことがあるであろう「限界」シリーズの完結編。自由意志とか愛とかそういったあたりを大の大人が大まじめに議論する、というのは興味深くもあり、いささか滑稽でもあり。まぁ滑稽なのは高橋先生がコミカルに書いているからだとは思う…思いたい?
『旧約聖書を知っていますか』は古い本の中では圧倒的な1位。阿刀田さんの語り口がとにかく絶妙で面白かった。中身というよりは文体の勝利だけれど、文章を好んでもらえるのは物書きとしては最上の喜びなんじゃないですかね。まぁ、すごい癖のある本ではあるので、絶対に人には勧められぬ。
『現代素粒子物語』はヒッグス粒子関連。今年はブルーバックスに限らず良い物理本がたくさん出たのかな。圏外になっちゃったけど『「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!』もよかったし、『これが物理学だ!』も十分楽しめた。タイムリー性と読みやすさの勝利かな。
『甲子園が割れた日』は野球好きな人にオススメできる本。私はリアルタイムで知らない世代だけど、私より1世代上な方々(30歳前後?)は当時を思い出して読むという楽しみ方もできると思う。高校野球の裏を知る、というレベルでも面白かったので、リアルタイム世代はもっと評価するんじゃないかな?
『鉄道会社はややこしい』はまぁ趣味全開の本。ずっと東京に住んでいる関係上地下鉄・乗り入れの話が心当たりありまくりでもうストライクゾーンど真ん中。その代わり後半、東京の地下鉄から離れたところは失速気味。人によって当たり外れの大きな本ですな、当たり前だけど。
『LIVE講義北朝鮮入門』は、ちょうど金正恩体制になろうとしている頃に読んだ本。これ以降けっこう北朝鮮ネタを好んで読むようになる一つのきっかけ。ブログでも書いたけれど、ある種の社会実験なんだよね。それが良いか悪いかは別にして。
『国際秩序』は所謂国際関係論の本だけど、近代ヨーロッパ史の復習にもなる。ナショナリズム的に対中、対韓関係を議論したり、「自主路線!」とか粋がってみたりするのがいかに何も考えてないか、ということがよくわかる。特にまた政権交代して、外交もそれなりに動きそうなので。
『ものが壊れるわけ』はなんかすごい印象に残ってる本。ただ実は中身はあんまり覚えてない。モノを壊れなくすることはできなくて、壊れなさと費用の間のトレードオフであるとか。「工学的」発想みたいなのが伝わってきたということなんだよね。何度も言うけど、中身はホントに覚えてない笑。
さて今年もあと1週間程度。来年ももっと良い本と巡り合えますよう、そして皆様よいお年を。
【割と書評】『思考の「型」を身につけよう』
多分今年最後になる【割と書評】コーナー。来年からは1カ月に1〜2冊新書を紹介するコーナーみたいな感じで発展させていきたいけれど、どうなることやら。
今月紹介する本は、飯田泰之著『思考の「型」を身につけよう』(朝日新書)。著者の飯田先生は若手リフレ派の代表みたいな経済学者で、マスコミにもよく出てる。院生時代に公務員試験用の予備校で教えていたとかいろいろあって、説明のうまさには定評がある…多分。
タイトルからわかるように、この本は経済学の難しい理論とかを書いた本じゃない。経済学を使ってモノを考えるとどんなことが見えてくるだろう?という本。序論のところは、飯田式大学教育論でもある。ついでに経済学に限らない基本的な(論理的な)モノの考え方も書いてある。そういう意味では、一粒で三度くらいオイシイ。
例えば、合理的ってどういうこと?という問いに対して、別に機械みたいな冷徹さを表しているんじゃなくて、「主観的な幸せを最大化すること」だと説明する。(106ページ)*1これは多分いろんな人が誤解してるし、多分私もうっかりすると時々間違える(汗)
さて、この意味で「合理的」だとすると、意外といろんなものが見えてくる。それは、「世の中に存在している全てのモノや現象には理由がある」ということだ。この発想は経済学的思考が持つ強みの1つだと思う。当たり前のことのように思えるかもしれないけど、この発想って意外と共有されてない。原発反対即時停止をお念仏のように*2唱える人はなぜ原発ができたかなんて考えようともしないし、外交でその方が「利益」になると考えたからアメリカに「従属」してきたんだなんてことは考えつきもしない。*3こういう人たちにはこの「世の中に存在している全てのモノや現象には理由がある」の部分を100回くらい音読していただきたいところだ。
あと、あんまり経済学思考系の本で見ない話題で出てきたのはオープンシステムとクローズドシステムの話。外部に逃げることができる場合とできない場合で全くとるべき選択肢が異なってくるということ。そういえば某居酒屋の社長が某選挙に立候補してたなぁとか、ロム○ーは投資会社の顧問だかをやってたから経済に強いんだみたいな主張があったなぁとか思い出す。
全体的に経済学的思考の実践例、という形で読みやすくまとまっていたと思う。特に読んで楽しめると思うのは、やはり現在進行形、または過去完了形の経済学学習者。あるいは、経済学的な思考というヤツに不信感を持っている別の学問畑の人もいい。こういう人たちは「楽し」めないかもしれないけども。あと何かタイトルがハウツーっぽいけど、お手軽ハウツー本みたいなのを欲してる人はあんまり合わないかもしれない。まぁその辺は、編集の人がハウツー好きの人も手に取るように仕組んだのかななんて思ってみたり。
(余談)1章で幸福の例として結婚が出てくるのはちょいとびっくりした笑。飯田先生は独身*4だったはずなんだけども、もしかしたら水面下で結婚話が進んでるのかもしれない。それとも、みんな結婚についてもう少し冷静になって考えてみようぜ!という独身者なりの問題提起なんだろうか?笑
11月の読書メーターまとめ
はい、毎月恒例のまとめのお時間ですよー。
今月は上旬のペースが異常で、それ以降の失速っぷりが半端ない。いや、忙しかった、マジで。でもこれから忙しくなることはあってもひまになることはなさそうだから、時間を捻出する方法を考えないといかんね。
数値としては冊数、ページ数ともに先月並。ちょっと一冊当たりのページ数が多めかな?フェミニズム運動の勉強会に参加するという流れの関係でフェミニズム本が数冊入ってる。あ、今確認したけど読んだやつ全部は登録してないんだ。だから少ないんだね。納得。
今月のベストは、なんだかんだで『民衆の北朝鮮』かなぁ。ブログにも書いたけど、ロシア人が北朝鮮ネタを書くとこうなるのか、っていうのがけっこう新鮮な感じでした。次点で『「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!』と『華麗なる交易』といったあたり。
…え?『これが物理学だ!』はって?いやその、寝る前にちょこちょこ読んでたらまだ終わってないんすよー。あと1章半くらいなんだけどさ。でもぎりぎり次点って感じ。期待が大きかったのもあるけど、言うほどスゴ本ではない印象。『物理法則はいかにして発見されたか』の方が良いよ。まぁちょっと古いからアレだけど、『これ物』も新しい話題より古典物理チックだからあんまり変わんない。
2012年11月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4498ページ
ナイス数:42ナイス
脱貧困の経済学 (ちくま文庫)の感想
経済学者×市民運動家という面白い取り合わせの本。私は一経済学徒として飯田先生の立場から読んだけど、貧困問題に興味がある人は逆の視点から読めて面白いかも。経済学の内容としては標準的なリフレ派に加えて、ベーシックインカムをかなり強く推している点が特筆に値する。ただこの本だからなのか?貧困層だけに配るスタンスなので所謂BIとは違う。所謂BI論者と親和性があるかどうかはその点若干微妙で、あくまで福祉、貧困対策という位置づけが強いのは少し気になった。それ以外はよくある誤解を解く、という感じかな。
読了日:11月30日 著者:飯田 泰之,雨宮 処凛
民衆の北朝鮮―知られざる日常生活の感想
北朝鮮と言えば韓国以上に「近くて遠い国」なわけだが、その北朝鮮の内情、特に市民生活に焦点をあてて書いた本。ロシア人視点、つまりソ連の崩壊を目の当たりにしてきた著者が、北朝鮮の様子を重ね合わせて描写するのだがこれが本当に面白い。「まだこんなことしてる」というチョッとした見下し感も見え隠れ。政府を疑うことに慣れ切ってしまい外国から入ってくる情報すら疑ってしまう、というのは面白い視点。北朝鮮の人たちには申し訳ないけど、崩壊過程は市場経済・資本主義が生成する過程を観察できるある種の社会実験になるんじゃなかろうか。
読了日:11月27日 著者:アンドレイ ランコフ
土の文明史の感想
文明の始まりに農業を位置づける見方はよくあるけれど、この本は農業のベースとなる「土」に注目した文明史。最大の問題点は目に見えて形成されたり消えたりしないことで、それが人々のコスト意識を失わせているのだと著者は言う。イースター島は樹木の過伐採それ自体ではなく、それによる土壌流出が原因だというのはなるほど。バイオマスなどますます土を酷使する話が浮上する中で読む価値はある本だと思う。基本的に技術発展に限界を感じつつ、というまとめ方だったけれど、それを何度も覆してきたのもまた人類史ではあるよね。
読了日:11月23日 著者:デイビッド・モントゴメリー
金融の世界史の感想
現代でこそ金融はグローバルで、世界を画一的に駆け巡る象徴みたいになっているけれど、過去をさかのぼると世界各地で独自の発展を見せていた、というお話。「欧米で長く続いた金本位制」というイメージが重商主義と相まって強かったので、そのあたりの認識は改めないといけない。アルゼンチンはどういう基準で選出されたのだろう?南米通貨危機組代表とかなんだろうか。今のシステムも決して安定的じゃないのは歴史を見れば明らかだけど、グラミン銀行的なシステムも、なんか息苦しそうでいやだなぁ。
読了日:11月21日 著者:国際銀行史研究会
フェミニズム理論 (新編 日本のフェミニズム 2)の感想
フェミニズム・ジェンダー関連のお勉強は続く。理論というよりは論文集だったけど、いろんな論点が読めたのは有益…多分。結局のところ(現代の)フェミニズムは、形式的平等の達成後いかに「実質的」平等を様々な分野で達成するか、それを広く納得させるかという部分に力を入れているようだ。その辺はなるほど、社会主義、マルクス思想との親和性がある。ただ社会学や歴史は百歩譲っても科学まで男性色がーと騒ぎ出すのはもう被害妄想レベルにしか見えない。歴史や社会学に関しても目指すべきは「女性の」ではなく「公平な」だろうに。
読了日:11月15日 著者:
社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動の感想
件の「社会運動とジェンダー」の勉強会の課題図書がこれ。フェミニズムと保守、両者が相手をキチンと見ず、レッテル貼りなどを繰り返した結果実りある議論ができなくなってしまった、というのが反省点のよう。実際私自身もフェミニズム関連の本は賛成反対の両者が過激な主張を繰り返し続けるというイメージが強かったので一応反省。ただ私自身はこの手の所謂「保守」運動も好きではなく、身近に考えたこともあまりないので、なんか勝手にどっかで争って勝手に和解してるなーという印象ではあった。もう少し問題点を洗い出さんとダメだな。
読了日:11月15日 著者:山口 智美,斉藤 正美,荻上 チキ
百年前の日本語――書きことばが揺れた時代 (岩波新書)の感想
「日本語が乱れている」VS「言葉は変化する」の争いはよく見るけど、過去どう変化していたか。そもそも表記が収斂していく過程は明治期の印刷物の普及と外来語の導入にみられるよというお話。確かに明治期の文学を見ると今では使われない表記がたくさん出てくるようだ。でそもそも、表記ゆれをなくそうとする動きはここ100年のものだと。面白いのだけどそういう意味ではちょっとタイトルが悪くて。もっと言えば著者は「言語」の本質は「書くこと」にあると思っているわけだ。話し言葉は証拠が残らないから検証できないのはそうなんだけどね。
読了日:11月10日 著者:今野 真二
ポジティヴ・アクション――「法による平等」の技法 (岩波新書)の感想
「ジェンダーと社会運動」に関する勉強会に出てコメントする、という謎の流れになっているのでちょっとお勉強。とりあえず、政治分野と経済や学問分野をもっと分けて考えないといかんと思うのだこの本。その上で逆差別問題を論じないと。で、結局「男女共同参画」って何することなの?女性の議員とか役員とかを増やすのって「目的」だったんだろうか?一応そうではないという論調だけど、少なくとも(男性視点から見ると)ただの逆差別以上の印象は持てなかった。勉強会までにもう少しいろんな文献を当たってみるけど、こりゃ先行き暗いなぁ…
読了日:11月8日 著者:辻村 みよ子
世界でもっとも美しい10の科学実験の感想
科学実験が「美しい」とは?著者は「基本性」「効率性」「決定性」を挙げている。各実験の紹介はもとより、繰り返し「美しさ」について説く章が挿入されるのは著者の美に対するこだわりなんだろう。古代ギリシャまで遡れば美と真実には密接な関係があったと。なぜ現代でそれが違うものとして認識されるようになったのか?というのが問題意識としてかなり強いみたい。有名な実験が多く(ガリレオのアルファ実験は知らなかった)ざっと科学史的にも読めるけど、「科学の美」論と個別実験への言及を両方やろうとしてちょっと中途半端な印象はあった。
読了日:11月7日 著者:ロバート・P・クリース
その科学が成功を決める (文春文庫)の感想
本屋さんに行けば「成功」だの何だの書かれた本が置いてあるけれど、それって本当?というところから始まり、どこかで聞いたような「自己啓発」本のウソをなで斬りにしていく本。大声がストレス発散にならない、観葉植物を机に置こう、前進する自分をイメージ、あたりは新鮮だった。全体的に真新しい話題の塊というよりは行動科学や認知心理の本でどこかで見たな?という内容が多かったけれど、あえて自己啓発本をダシに(失礼)したあたりが面白く読める。この辺は発想(企画)の勝利といったところか。自己啓発本を読む人ほど楽しめるという皮肉。
読了日:11月5日 著者:リチャード ワイズマン
華麗なる交易 ― 貿易は世界をどう変えたかの感想
基本的には貿易通史だけど、エピソード形式の章建てなのでどこからでも読める。基本的には「華麗なる」というタイトルなどからわかるように、自由貿易の立場、貿易がもたらしたものを利益とみなす。TPP関連で保護貿易(的なもの)を求める声が最近大きいけれど、それを乗り越えてきたから今があると。ただし、反対派、損害のある層への配慮(補償)についても触れているのでかなりスタンダードでバランスがとれている良書。(紡績機の)ミュールってラバのこと、イギリスと中国(日本)のお茶の容器の違いなど、豆知識的なのも多数面白く。
読了日:11月3日 著者:ウィリアム・バーンスタイン
世界を騙しつづける科学者たち〈下〉の感想
下巻は、受動喫煙、温暖化、カーソン批判再来。メインで出てくる4人が軒並み物理学者なのが興味深い。彼らにとって「新発見」の精度は高くないといけないのかもしれない(例:ヒッグス粒子)結局この本に出てきた問題って「科学コミュニケーション不足」に帰着するんだろうけど、どうも最後にチョッと出てきただけだった。さらに言えば著者たちは「政府の失敗」という言葉を知らないんだろうか?結果的に政府規制がうまく行ったことと、環境問題の市場での解決の主張を(事後的に)非難することの間には天と地の差があるよ。
読了日:11月2日 著者:ナオミ オレスケス,エリック・M. コンウェイ
「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた! (ブルーバックス)の感想
物理専攻、理科系の人でなくても聞いたことがありそうな「シュレ猫」。量子力学の不思議さの象徴、かつ思考実験の代表選手のような扱いだけど、なんと今は「シュレ猫」状態がつくれるんだよというお話。といっても猫を使うわけじゃない。表紙や挿絵がポップなのに中身はかなりハードで読むのに時間がかかったけれど、2種類の量子力学の捉え方、量子力学の応用例としての量子コンピュータとテレポーテーションなど、今後これを読まずして量子力学は語れなくなるかもしれない。次はぜひ本物の猫で…え?動物愛護団体から苦情が?
読了日:11月1日 著者:古澤 明
読書メーター
北朝鮮から来た挑戦状
『民衆の北朝鮮』(アンドレイ・ランコフ、花伝社)が何か知らんけど面白い。新しいとは言えない本(翻訳で2009年だから、原著は2007〜8年あたり)だからもう実情は変わってるかもしれないけど、北朝鮮の市民生活が赤裸々に書いてある。まぁ、まだ途中なんだけども。
面白いのは著者の経歴。ソ連時代のロシア人で、北朝鮮に留学後一旦ソ連に戻り、今は韓国の大学で教授をしている。
以前この手の、政治史とかとは少し離れた北朝鮮関連の本として『LIVE講義北朝鮮入門』(磯崎敦仁・澤田克己、東洋経済新報社、2010)があった。これも面白かったけど、民衆の描き方が違うなぁと思ったんだよね。
『民衆の北朝鮮』に出てくる北朝鮮の人たちは、どっちかというと「まだこんなことしてるんだ」というイメージで描かれている。アメリカに対する敵意とか、集会とか。もちろん、それは本心から来たものじゃなくて、そういう風に教育されてしまった結果なんだけど、少なくとも著者の書き方からは、「遅れた国、進ませてもらえない国」という印象を受ける。一方で『LIVE講義』の方は、むしろ「意外と普通の国」という書き方をしているように感じられた。
この二つの違いはやっぱり、主要な読者を誰に想定するかにあるんだろう。日本人の中での北朝鮮のイメージは、拉致問題やテポドンといった現実的な脅威が大きい。さらには全体主義国家なのでそれを批判できない、あるいは(形だけでも)支持し続けている民衆、という構図になる。だから『LIVE講義』の中では「北朝鮮の人たちも私達と同じようにいろんなことを考えながら生きているんだよ」という書き方をして、負のイメージを少し軽減させてあげる必要があるわけだ。
だけどロシア人にとってみれば、北朝鮮はかつての社会主義陣営のお友達だ。もちろん今もうソ連が崩壊して20年経ってるから、当時の通りの感覚を持ってる人ってあんまりいないのかもしれないけど。一方で、北朝鮮はまだ社会主義、全体主義的なイデオロギーに固執している国だ。そうなると、「昔自分達も似たようなことやってたけど、もうやめた。北朝鮮はまだ頑張ってるんだねぇ」という書き方をした方が読者受けが良いってことになる。
少し話はずれるけど、私は実はけっこう北朝鮮ネタが好きだ。多分、純化されたイデオロギーとそれに基づく政治をやると何が起こるか?っていう盛大な社会実験的なものを今でもやってる国、っていう意識があるんだと思う。中国ですら経済システムはもうほとんど市場化してるわけだしね。社会科学にかかわる人間としては、ある種の実験サンプルみたいに見てしまってるわけ。もちろん、そこに住んでいてつらい思いをしている人はたくさんいるし、そういう人たちのことを忘れたら本末転倒なんだけどね。
10月の読書メーターまとめ
今月から本の画像を少し大きくした+月初に読み終えた本が最初に来るようにしてみたよ。
さて、冬期の大学(院)が正式に始まった割には合間を縫って読めていて、夏休み期間と比較してもページ数は2割減らなかったのはちょっと意外。
ナイス数に至っては1.5倍とやや暴発(失礼)気味だ。ただコンスタントに2ナイスくらいつくようになっていて、最高は『ゼロからトースターをつくってみた』の4ナイス。というか、10月分の本についてるのが21ナイスだから、遡りナイスが多かったことになる。
今月のベストだが、結局『100のモノが語る世界の歴史 3』が一番面白かったのだけれど、なんか3冊分刊の3冊目を改めてベストにするのも何なのでやめよう笑。
それを引くと今月のベストはなんだかんだで『甲子園が割れた日』か。野球に興味が全くないよっていう人にはちょっとつらいかもしれないけど。野球ファン、当時をリアルタイムで知っていて印象に残ってるような人、そこらへんは読んで面白いんじゃないかと思う。
万人受けという意味では次点の『ゼロからトースターをつくってみた』と『ゼムクリップから技術の世界が見える』かな。
…実は読みかけの本で『「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!』と『これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義』はベストを張りうる、特に後者は読後感によっては今年のベストになりかねないレベルなので、11月は激戦区の予感。
2012年10月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:4210ページ
ナイス数:42ナイス
甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実 (新潮文庫)の感想
これは本当に面白くて一気に読んでしまった。チームスポーツ、しかもチームスポーツ「なのに」1対1の勝負を行う野球という競技をどう捉えるか?ということなんだろう。プロとそれ以外、という対比でなく、社会人野球と高校野球の違いについての考察も面白かった。著者の言うとおり、この話に「正解」はないのだろう。ただ今だから冷静に見ることができるけれど、当時の野球ファンが松井の打球を見れずにがっかりしたのは容易に想像がつく。それにしても明徳の空気はちょっと異常だなぁ。野球留学を問題視するのもわからんでもないと思ってしまう。
読了日:10月1日 著者:中村 計
海賊の世界史〈上〉 (中公文庫)の感想
海運は歴史の中で(今も)人類の輸送の要。富があればそれを奪う者が現れるのも世の常だ。とはいえ実際の海賊は単純な私欲で動いていただけではないようだ。国家による黙認や宗教的な対立も海賊行為の原動力となっていたことがわかる。国家が本気になって取り締まりを始めればじり貧になるのは避けられない面もある。古い本なので仕方ないけれど(原著は1932年!)せっかく「書に残らないアウトローの歴史」を書くのだから、今流行りの?書物史料に頼らないものにすればもっと面白かったのではないかとも思う。下に期待。
読了日:10月4日 著者:フィリップ ゴス
理科系の文学誌の感想
私は文学というものが大変苦手であり、特に某大学入試一斉塗り絵試験の小説問題は常に凄惨たる出来であった。特に「○○の気持ちを答えよ」という問題ができない。だがこの「文系」的な読みはできないにしても、その逆である「理系的」な読みなら面白いかもしれない。なるほど確かにこうやってSFや文学を読めれば面白いと思える。言語や進化などといった概念を元に深読みしていく作業は実に知的冒険という感じだ。もう少し有名な題材を使ってほしかったけれど、アラマタ先生にそれを求めるのはお坊さんにコーランの解説を求めるようなものでして…
読了日:10月7日 著者:荒俣 宏
21世紀の歴史――未来の人類から見た世界の感想
なんか奇妙なタイトルの本だが、フランスでは著者の名を冠する政府委員会ができてしまうくらいインパクトが強かったらしい本。過去については、中心都市という地政学的な枠組みと、一貫して自由を求める方向に人類史が動いてきたという見方。やや西洋中心史観のきらいがあるが基本的には納得できる。未来予測については…うーん。比較的過去に対して冷徹な筆致だったのだが、超民主主義の到来について妙に楽観的なのが気になった。超民主主義は本当に「自由」かなぁ。ただこの辺りは訳語、「自由」という言葉のニュアンスの問題かもしれない。
読了日:10月8日 著者:ジャック・アタリ
頭の回転数を上げる45の方法の感想
ちょっとタイトルや前書きから連想される内容とは違ったが、これはこれで面白い。まだ社会人でないので実感とまではいかないが、「仕事」をする上での心構えのようなものがわかった。大きく3つにまとめると「基礎を大事に」「時間を意識」「能動的に行動、特に思考する」ということかな。学生のうちから応用できそうなこともいくつかあったのでそのあたりは意識してみよう。「守破離」や「基礎を大事に」と「既存のものを疑え(基礎も既存のもの!)」のバランスはいつもこの手の議論で難しいと感じるけれど、そこらへんにはあまり触れられず。
読了日:10月11日 著者:久保 憂希也,芝本 秀徳
100のモノが語る世界の歴史3: 近代への道 (筑摩選書)の感想
「100モノ」完結編で、今回は近代。といっても中世末期の宗教関連のものから始まるが。相変わらず読んでいるだけで楽しい本である。面白いのは、99が「クレジットカード」で100が「ソーラーランプと充電器」であること。1000年後の人類が20世紀末〜21世紀初頭をどのように捉えるだろう?という疑問に対して一つの答えを示唆すると同時に、ここまで見てきた100個の様々な「モノ」が、当時の人にとってどのような存在であったかを間接的に物語っている。うん、実に良いシリーズであった。
読了日:10月13日 著者:ニール マクレガー
人でなしの経済理論-トレードオフの経済学の感想
経済学の基礎的な考え方にはいろいろあるけれど、その中の1つがこの「トレードオフ」つまりあちらが立てばこちらが立たないということ。あえてその観点から様々な「当然」とされている社会問題を眺めてみると、意外と全然違う絵が見えてくる。経済学をやっていると割と普通な発想が多かったけれども、反発する人は多いだろうな。ただ例えば強硬な反原発を唱える人は少なくともこの視点が欠けているとは思う。もちろん彼らにしてみればこういう考えは「人道にもとる」んだろうけれど、その点全然違う原題を「人でなしの」と訳した山形さんは上手い。
読了日:10月17日 著者:ハロルド・ウィンター
ゼムクリップから技術の世界が見える アイデアが形になるまで (平凡社ライブラリー)の感想
技術的な可能性、アイディアが製品に反映されるまでの様々な要素を具体例を挙げて説明した本。小さいのは鉛筆、クリップから最後には橋、高層ビルまで。ちょっと古い本(96年)なのでファックスがやたらともてはやされていて時代を感じる。今ならタッチパネルだろうか?高層ビルはエレベータ関連が全面積の30%近くってほんまかいな。クリップの特許ってずいぶん細かいんだなぁ。工学も理学も「理系」だけど、向かっている方向が全然違う。その辺は経済学と法学が「文系」だけどけっこう空気が違うのと同じものを感じる(やや脱線気味)
読了日:10月18日 著者:ヘンリー・ペトロスキー
ゼロからトースターを作ってみたの感想
イギリスの工学系の大学院生が、文字通り自らの手で原料調達から何からしてトースターをつくろうという。プロジェクトXの亜種みたいな本。当初の目標と比べるとずいぶん穏健な?ところに落ち着くけれど、読めばそれも仕方なしと思える。意外と金属を作るのが楽で、確かに人類は石器の後青銅器時代を経験しているのだから当り前か。銅が一番無難に作れていたし。著者のまとめは環境問題や現代への警鐘?といった方向だが、個人的には「分業・大量生産すげー」という勢いで読んでいた。手を動かしたならではの感想なのか、工学的な見方なのか。
読了日:10月21日 著者:トーマス・トウェイツ
海賊の世界史〈下〉 (中公文庫)の感想
下巻は北米からアフリカ、中東、アジアまで…と書くと広い。特に下巻で印象に残ったのは、様々なキャプテンの最期、処刑される場面。あくまで自分の正しさを主張したり、ここにきて急に大人しくなったり、ふがいない仲間を罵ってみたり。日本の武士には「辞世の句」という、正に切腹=死ぬ間際に残す言葉というのがあるけれど、実は一番個性が出るタイミングなのかもしれない。それ以外だと女性海賊の意外な活躍が目立った。当時の世相を考えると、男性以上に、一度関与してしまったら引くに引けない、という事情はあったかも。
読了日:10月23日 著者:フィリップ ゴス
経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)の感想
やや思想史的な観点から、現在経済学が絡んでいる問題と、それに対する見方をまとめた本。連載が元なのでややぶつ切り感があるが、「価値判断まで経済学が絡まないように」という主張で一本通っている(と書いてある)。個々の話は面白く、ルーマニアの独身税、消費者主権はどこまで本当か、などなど。どこかで聞いたような話を経済学とその周辺の思想で整理する、という試み自体は思想肌の人も経済肌の人も等しく楽しめる。結局全体の結論がなんだったのか、はいま一つ伝わってこない。エッセイ集と思えば、十分アリ。
読了日:10月25日 著者:猪木 武徳
盲目の時計職人の感想
ドーキンスと言えば『利己的な遺伝子』だけど、これも面白い。進化論に対する様々な誤解を解きつつ、その「普遍性」を示していく。タイトルが初見よくわからないけれど、最初の方を読めばなるほどと思える。結局のところ生物の進化が人間の時間スケールだと実感できないことが様々な誤解に繋がっているんだろうなと感じた。原著がやや古いのでコンピュータを使った研究は進んでいなかったようだけれど、例えばバイオモルフなんかも今やればもっと綿密なのができそう。それはそれで、生物のモデル化に対する批判みたいなのが出そうだけど。笑。
読了日:10月26日 著者:リチャード・ドーキンス
カップヌードルをぶっつぶせ!―創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀 (中公文庫)の感想
カップヌードル開発秘話は「プロジェクトX」でも大人気だったけれど、その後の日清を支えたのは何か?というお話。もちろんカップヌードルは偉大な発明、主力商品だけれど、それだけではダメだと。読んだ限りでは創業者はあくまで「一発屋」で、「創業者は天才」というのと少し違う印象だった。そういう意味でも2代目の苦労とセンスが伝わってくる。業界内の競争、会社内の競争をどう行うかが鍵だということ。日本人は競争嫌い、という話もあったけれど、そうも言ってられない。全体的に食品業の特殊性をどう使うか、が裏テーマだった印象。
読了日:10月27日 著者:安藤 宏基
世界を騙しつづける科学者たち〈上〉の感想
温暖化、酸性雨などの分野で、主に政治的思想から科学的事実を恣意的に曲げて主張し続けた(る?)科学者たちの姿を糾弾する本。反共産主義的な思想が、環境問題の存在を認める→市場に対する介入が必要になる→社会主義への一歩だ!と暴走しているのか。ここで批判されている科学者たちは既に、(論争当時)第一線から引いている人たち。そういう意味でも科学の啓蒙・普及活動って難しい。本気で研究している人より時間がとれ、声が大きくなるんだ。「御用学者」は一時期原発関連で流行ったけれど、原発問題でどっちが「御用」チックかというと…
読了日:10月29日 著者:ナオミ オレスケス,エリック・M. コンウェイ
読書メーター
【割と書評】『経済学に何ができるか』
(ちょっと文体模索で軽めな感じで書いてみた)
(10月27日 注釈追加)
経済学って、大好きになるか大嫌いになるかのどちらかだと思う。そんな学問。なんでもかんでも経済学で説明しようとする人もいれば、とにかくアレルギー反応を起こす人もいる。一言で言うなら、この本はそんな2人の間の落とし所を探った本だ。
もともと連載ものをまとめた本なので、各章はけっこうぶつ切り。一貫して大きな議論をしているというよりは、様々な事象について個別の具体例を挙げて、最後にそこから帰納的に結論を導き出している本、って感じ。でもその分、個々の章のトピックは面白いものが多い。
・1章がいきなり脱税(税金)の話から始まるんだけど、ルーマニアには「独身税」があったんだけどなぜか女性にしかかからなかったんだって。元々少子化対策(産めよ増やせよ国のため)なんだから「子供もたない税」にすればいいとも思うんだけど、そうじゃないらしい。子供産んでも離婚したら税金とられるのかな。とられるんだろうな。
・貧困関連の話で、「平等で行きましょう」という価値観が浸透したことによってかえって不平等に対する不満が募りだした、というのもなかなか残念なものがある。知らぬが仏とはまさにこのこと。
・知識の公共性、知的財産保護の話は今流行りなんだろうか?『反・知的独占』の話題が取り上げられていたり。エイズ薬の特許問題、私はアメリカの製薬会社を責めても仕方ないと思うんだけど、その辺もいろいろと。
サブタイトルが「文明社会の制度的枠組み」であるように、全体としてやはり制度の力を大事にしている。特に後半は、制度によって個人が規定されるという話が何度も出てくる。ちょっとずれるけど、「消費者主権と手放しでは言えない」という議論は、ウェブレンの「顕示的消費」論とも絡んでくると思う(はっきりとは出てこなかったけれど)。
そしてもう一つ重要な結論が、人間が持つ多様な性質、合理性と非合理性が同居している現実を直視したり、価値判断まで持ち込む必要があるときには、経済モデルは役に立たない。その限界を認めることが必要だ。価値選択の段階にまで経済学の論理で口を出さないようにしよう。はい、気をつけましょう。
うん、そうなんだけど。気になったところを2点ほど。
まず、現在のいろんな問題の根源は、「経済学の論理が価値選択の段階にまで口出ししてること」じゃなくて、「経済学を使って価値計算をしようとすると怒られること」にあるんじゃないか、ということ。価値選択の段階にまで経済学の論理で口を出してる人って、そんなにいるのかな?私にはちょっと思いつかない。*1例えば(この本でも触れられてたけど)TPPとか、原発(エネルギー)問題がこじれてるのって、過剰に経済学的な思考に拒否反応・無理解な人たちの声が大きいからだと思う。「価値判断に経済学が踏み込まない品格」は大事かもしれないけれど、優先順位的には高くないんじゃないかなぁ。*2
もうひとつ。最近いろんな本の感想で書いた気がするけれど、「個人が先か、社会が先か、という形で仮に問題を単純化するとすれば、実は社会の方が、人間にとっては古いのだと言わねばならない」(p.8)には賛同しかねるなー。個人主義という言葉が後から出てきたということと、個人より社会が先にあったということは直接はつながらないでしょう。意識しているかしていないかに関わらず、やっぱり個人の合意から社会が生まれたと考えた方が、少なくとも私はしっくりくる。
結論としては、全体で何をしたかったのか結局今一つ伝わってこなかったけれど、各論はとても面白いし問題整理として読み応えがある本。ジャンルとしては思想色が強いので、そういうのに興味がある人はお勧めできます。
人災天災論と再稼働問題
9月の貿易統計が出て、案の定7月〜9月期の貿易赤字がまた記録的に大きかったようですね。
理由はいろいろあると思いますが、中国との摩擦で輸出が滞ったのが一番の原因でしょう。
それ以外の、ここ1年近く貿易赤字となっている要因として、火力発電用の燃料の輸入が増加したことがよく言われています。原発が再稼働できないから、火力で「足らせて」いるわけです。
ところで、原発事故直後に、「今回の事故は天災か人災か」という議論が起きたのを覚えていますでしょうか。
原発に批判的な人たちがこぞって「東電や政府の管理がいけない!」と騒ぎ立てる一方、政府・東電側の説明は「いや、これは天災なんだ、仕方ないんだ」というものでした。
ところが最近、政府の事故調査委員会などが報告書を出していますが、当初の主張と比べるとずいぶん穏健というか、様々な不備を認める発言をしているんですね。「リスクに十分な対策を講じていなかった」というような表現が出てきます。
一方で、反原発な方々による政府の責任追及はちょっとトーンダウン気味なんですね。
もちろん、政府がある程度責任を認めた以上「反原発側の勝ち」という認識でもいいんですが、私自身はちょっと穿った見方をしているので、それを書いてみます。
一言で言うなら、「人災なら対策して原発動かそうぜ!」ってことです。
そうなんですよ。原発止めて、化石燃料の輸入で年に兆単位の貿易赤字を出すくらいなら、その中の一部を使って(みずほ総研の試算では2011年の輸入増のうち4,4兆円が燃料代だそうです)対策すればいい。3割使っても1兆あります。それだけあればいろんなことができるでしょう。
政府他がこれに気付いて「人災でした」という報告をしたかどうかはちょっとわかんないです。ただ反原発側が最近静かな理由として、「原発は人災だ!」と主張するとすると、その段階で「費用対効果」の問題になってしまうことに気付いた可能性はあります(もちろん、単に彼らもいい加減あきてきたのかもしれませんが)。対策できる部分までは考えた費用対効果の問題で行くなら、少なくとも現時点では圧倒的に原発が安い。天災のリスクを0にするために原発を止める、費用対効果の計算に乗せない、というのは理屈としてはわからなくはないですが(あまり賛同しませんが)、人災ならいくらでも比較や計算の方法があるはずです。
結局のところ「何らかの形で人災であり、責任が政府、東電にあることを認め」た上で、「原発を稼働し」て、「浮いた燃料代の一部を使って様々な対策設備をつくる」のが理想形だし、誰もが納得する解決だと思うのですけれど、そんな簡単にうまくいくなら話はややこしくなっていないですね。
今日はこの辺で。